最強のレーシングチームは何をしていたのか
日産GT-Rという車をご存知でしょうか。GT-Rの開発者、水野和敏さんのお話しです。
水野さんは初代プリメーラやR32スカイランなどのパッケージ提案と開発をされていました。
そんなころ、会社からレーシングチームを監督するよう依頼されます。しかし、勝てなければ1年で撤退する、という話だったそうです。
水野さんが監督して担当したレーシングチームは任された年から
国内耐久メーカー選手権3年連続チャンピオン獲得
90年ル・マン24時間レース5位入賞
92年デイトナ24時間レース総合優勝獲得(特に92年は参戦全レース全勝)
ととんでもない成績を残します。
どうやってそのようなチームを築き上げたのでしょうか。
人と違うことをやる
当時、日産のレーシングチームは年間予算50~100億円で活動し、最大250名ものスタッフで活動していました。海外のトップクラスのチームと組み、レース活動をしていました。しかし、勝てない。
そんな状況の中、水野さんはチームを任されます。
水野さんはまず自分が100%運営を任されるまでは首を縦に振らなかったそうです。
100%の運営を任された水野さん。予算は半分の20億程度で、スタッフも50名で、海外のレーシングチームとは決別し、我々だけでやる、と。周りからは
「それはいくらなんでも無理だ。勝てるはずがない。」
水野さんは、こう言います。
さらに
「優秀な人はいらない。それよりも後がない人のほうが力を発揮する。なぜなら優秀な人は自分のキャリアが傷つかないようにする。ネガティブワークになる。でも後がない人は思い切りやる。結果は全然違うんだよ。」
「人と違うことをしないと勝てないよ。」
しかし、常識で考えてヒト、モノ、カネは少ないほうがいいものができる、優秀な人を集めずにチームを組む、というのは信じがたいことです。しかし、水野さんはダントツの結果を残します。
その秘密は『人と違うことをする』ということなのですが、では具体的に何をしたのでしょうか。
本質を掴むとヒト、モノ、カネは半分、結果は倍、苦労は半分
水野さんが人と違うこと。それは徹底的に本質をつかむこと、です。
レーシングチームの本質、レースの本質とは何でしょうか。
レーシングチームは最高のエンジン、つまりパワーが出るエンジン、最高速度が出るシャーシを競っていたそうです。しかし、水野さんの着眼点はそれらのチームとは違っていました。
レースにおいて最高出力を使う機会は全体の18%。それ以外の82%ではアクセル半分で車体をコントロールしながらコースを攻略する。水野さんは最高出力を使わない82%のところにレースの本質であると捉えていました。
最高出力を追い求めるとエンジンの耐久性が低くなり、信頼性に難が出ます。またそれを支えるシャシーをつくるには大変高度になるため資金が必要になります。
水野さんのチームは82%のアクセル半分で最速の車をつくりを目指します。そうするとエンジンにもシャシーにも余裕ができ、結果的に信頼性が上がり、燃費もよくなるという車ができあがったのです。
結果、水野さんのチームは初年度から優勝。ドライバーのミス以外はリタイヤがでないというレーシングカーを作り上げるのです。
人間の最大の力は想像力とモチベーション
なぜ水野さんはこのような本質を見極めることができたのでしょうか。
水野さんはGT-Rの開発においても常識とは異なるアプローチを試みて成功させます。レーシングチームにおいても常識では考えられないことをいくつも取り組まれたそうです。
水野さんに言わせれば、本質から物事を見たとき、業界で常識としてやっていることが非常識だったので変えただけ、とおっしゃっています。
海外のレーシングチームと組まなかった理由の一つに物事を本質で見て、自分たちでその本質に対して100%取り組みそのためだったのではないかと思います。
自由にできるから、任させられているからモチベーションがわく。後がないから必死に考えてやる。水野さんの話をお聞きすると、とにかくすべてが前向き、本質を徹底的に追う。そんな印象を受けます。
最高のものを作っても勝てない理由
水野さんの話をお聞きして、印象に残ったが一つが最高のものを作っても勝利につながらない、ということです。
これはレースに限らない話です。たとえば電気ポット。
これまで電気ポットメーカーは多機能を追い求めてきました。お湯を3段階に分けて沸かすことができる。お湯を出す量を調整できる。省エネモード。節約タイマー。お知らせメロディーなど。
2001年、電子ポットに革命が起きます。それがティファールの電気ケトルです。
それまで日本ではお茶やコーヒーを淹れる際、やかんでお湯を沸かしたり、ジャーポットで大量のお湯を沸かして保温することが一般的でした。
ティファールが世に出してきたのは、少量ですぐに沸かせる電気ケトルでした。
これであれば保温しないためエコであり、必要な分をわかすため無駄がない、余計な機能がないため安価。
現在では約5割の家庭に電子ケトルがあるというほど大ヒット商品となりました。
顧客は高性能な電気ポットではなく、安価で無駄なくすぐに沸かせるツールを求めていたことがわかります。これが本質だったのです。
たとえ最高のものではなくても本質を捉えることができればヒット商品を生み出すことができる一例です。
水野さんのお話はいろいろ考えさせられます。
最高のチームをつくるにおいて何が本質なのか。
それはきっと何をつくるのか、何をするのか、などサービスや商品によって変化するのでしょう。
だからこそチームはおもしろい。人と何かをつくりあげていくことは大変だけどおもしろい。あらためてそう感じさせてくれるお話しでした。