ほめる指導法。しかる指導法。結局どっちがいいの?
もくじ
ほめる指導法。しかる指導法。どちらが正解なのか。
あなたはどちらのほうがいいと思いますか?
私は以前まではほめるほうが絶対にいいと思っていました。
どちらかというとメンタルがそれほど強くなく、おだてられたほうがドンドン行くのでほめる指導法のほうがいいと思っていました。
「思っていました」というぐらいですから、いまは違います。
結論からいうとどちらでもありません。キーワードは「承認」「観察」「感謝」です。
「承認」とは辞書で調べると
1、そのことが正当または事実であると認めること
2、よしとして、認め許すこと。
3、国家・政府・交戦団体などの国際法上の地位を認めること。
コーチングで承認はスキルの一つとして、重要されています。
「結果だけではなくその過程・成長度合いを認めること」。
DIAMONDオンラインのサイトで紹介されていた記事では
「承認とは観察して得られた事実を言葉にして伝えること」
と記載されていました。
「ヤフーの人材育成1on1の舞台裏」より
https://diamond.jp/articles/-/135234
落合博満さんをご存知でしょうか。
元中日ドラゴンズ監督を8年間率い、リーグ優勝4回、日本一1回という成績を残され、ドラゴンズ史上最多の優勝回数を誇る監督です。
ほめない指導法でリーグ優勝4回
落合さんは監督時代、一度も選手をほめたことがなかったそうです。
「オレ以上の実績を作った選手がいたらほめてやる」
この実績を超えるのは本当に大変です。3度の3冠王は前代未聞の記録だからです。
私は不思議に思いました。ほめることをせずに選手がついてくるのだろうか。普通だったらチームは崩壊する。しかし実績から見るとそうなっていない。なぜだろう。
現代はどちらかというとほめる指導法がもてはやされています。しかる指導法は論外、という風潮があります。その中で落合さんは選手をほめることをまったくせずにリーグ優勝4回も果たします。
何か秘密があるはずだ、思い調べてみるといろいろなことがわかってきたのです。
観察する
落合さんの本、「コーチングー言葉と信念の魔術」の中に
見ているだけが理想のコーチング
と書かれています。なぜ見ているだけなのでしょうか。その理由は
「自分自身で考えられるように育てるため」
です。落合さんはとにかく選手一人ひとりが独り立ちして欲しいと考えていました。アドバイスをしてしまうと考えない選手になってしまう。だから自分で考えて考えて本当にどうしようもなくなって真っ白になったときに声をかける。
それでも本人が質問してこないのであれば教えないのだそうです。そして教えるときも決して押し付けることなく、
「オレはこう思うんだけどどう思う?」
と言い、最終決断は本人にさせるようにしていたそうです。
自分が教える立場になってやってみるとわかりますが、「見てるだけ」というのは本当にツライです。どうしても教えたくなるし、手を出したくなります。
落合さんは徹底しています。
多村選手という一人の選手の指導のときの話しです。
多村選手は当時活躍していたローズ選手とそっくりの構え方をしてました。
「その構えはダメだからこうやって打て」
と言っても聞く耳を持ってくれるはずもありません。
落合さんは2時間で1000回のスイングをするように課します。
多村選手の体格はローズ選手とは違います。そのため多村選手にとって本当にあった構え方ではないことは落合さんにはわかっていましたが、言葉で言ってもダメなため3時間の練習を課したのです。
2時間、落合さんはその練習を見守ります。そうすると次第に無理な構え方から自分が一番楽な自然な構え方になっていったそうです。
2時間、ずっと見守り続けるのは本当に大変です。しかも一切アドバイスなしで。
そして落合さんは多村さんにこう言います。
「この練習でつかんだことを短時間に結果を求めてはいけない。2~3年かけて完成させればいい。間違っても1週間で結果を求めようとはするな。」
落合さんはこうやって選手を育てていったそうです。観察するからいろいろなことが見えてくる。こうもおっしゃっています。
私はこの本に2001年に出会いました。「見ているだけが理想のコーチング」というのはいい意味でショックを受け、いまも心に残っています。
観察がいかに重要かという話しです。
実は観察というのが承認でもあるのです。
承認がなければ「ほめる」「しかる」は効かない
普段見てもらっていない人からほめられると、
「なんだよあいつ調子いいな。普段見ていないくせに。」
となります。
逆にしかられると
「あいつは俺の何を知っているっていうんだ。」
となります。
普段から目をかけられている人からほめられると本当にうれしい気持ちになります。
逆にしかられると、あの人がいうからそうだよな、となります。
承認、観察という土台がなければ「ほめる」「しかる」というのは効かないのです。
これはよく覚えておかないといけません。
ミスはしからないが〇〇〇はしかる
落合さんは
「ミスはしからないが手抜きはしかる」
と言います。
ミスをしかられると萎縮してしまいます。しかる目的は何なのでしょうか。しかるにせよ、ほめるにせよ何の目的で指導を行うのでしょうか。
それは
一人ひとりの力を伸ばすため
です。
手抜きは力を伸ばすことにはなりません。そしてミスをしかられると人によって萎縮してしまい、本来の力を出せなくなる可能性が出てきます。
指導の目的とは異なる方向にいってしまうのです。
チームのある一人からこう言われたことがあります。1年経つか経たないときに
「なぜそこまで我慢して私を使ってくれるのですか?腹立つこととかないんですか?」
「2~3年後を見ているからだよ。1年目は準備段階。ミスはあって当然。私も1年目なんてミスばっかりだったよ。1年目の私と比べたら君ははるかに優秀だから大丈夫。ただし、3年後に同じ失敗していたら怒るよ。」
偽りのない本音でした。その人は本当に懸命に仕事に取り組んでくれていました。ミスと言っても許容範囲のミスで、致命的なものではありません。同じ失敗を繰り返すことはほとんどなかったので、腹が立つことはありませんでした。
こういう言葉が出たのも落合さんの本を読んだおかげです。
観察と感謝
「観察する」、というのは時間もかかるし、大変ですが、間違いなく効きます。
そして観察しているからこそ、大切なことに気付けるのです。
現場に足を運ぶというのも「観察」の一つなのです。とにかく目をかけること、観察すること、声をかけること。そしてミスは叱らず手抜きを叱る。
それから私がもう一つ気を付けていたのが、「ありがとう」という言葉をかけることです。
「ありがとう。助かったよ。」
という言葉は意識的によく使いました。
「ありがとう」の反対は何だと思いますか?
それは
「当たり前」です。
当たり前と思ったら本当にダメです。当たり前どんどん続くと次は「無関心」になっていきます。
普段、部下に対して「当たり前」「無関心」なのに、ちょっと成績が良かったらほめて、失敗したらしかりつける。こんなことをして部下がついてくるはずがありません。
大切なのは、「観察」と「感謝」です。