自分が変われば世界が変わる
最初にチームを見る機会をいただけたのは母校の中学校のサッカー部でした。
大好きなサッカーを仕事にしたい。そのためには経験が必要と考え、母校の中学校のサッカー部の顧問の先生に、サッカー部のコーチをさせていただきたい、とお願いしたのがはじまりでした。
3年間見させてていただき、かけがえのない経験を得ることができました。
もっとも大きな学びは、『自分が変われば世界が変わる』ということでした。
成果がでなかった3か月
サッカー部顧問の先生から状況をお聞きすると顧問の先生は柔道部でサッカーを指導するのははじめてで、昨年の結果は練習試合を含め1勝もできていない状況とのことでした。
全面的に指導を任された私は、さっそく練習メニューを試合で通用する技術をマスターするものに変更しました。ボールを多く触るメニューを増やし、試合のシチュエーションを想定した練習を数多く増やしました。
中学生たちは今までやったことがないメニューのため新鮮な気持ちで取り組むことができ、最初の1か月でかなり上達しました。
練習試合でも昨年は0-5とまったく歯が立たなかった相手にも善戦するようになり、負けはしましたが、2-3など拮抗した試合をするようになってきました。
しかし、ここからが問題でした。勝てそうな相手でも勝てそうで勝てない3か月でした。
私は非常に不満でした。なぜなら私から見れば確実に勝てると思える相手に勝てなかったからです。メンタル面で負けているように映ったのです。
負けた原因は私はあろうことかメンバー一人ひとりのせいにしました。
技術は間違いなく上がっている。あきらかにメンタル面、お前たちが悪いと。
いま考えれば最低の指導者です。
自分の指導を反省することはなく、子供たちのせいにしたのです。
徐々に子供たちが私から心が離れていくことを感じました。このまま続けても強くなる感じが得られない。2か月目より3か月目のほうがチームが弱体化している。
そう感じた私は、もう辞めてしまおうかと考えました。
しかし、自分が好きではじめたこと。ここで投げ出したら今後の人生、すべてダメになってしまう。私はそう感じていました。
考え方の変化きっかけは名指導者の本と顧問の先生の言葉
そんなとき、顧問の先生がふと練習を見に来られ、こんな言葉を私にかけてくださいました。
「中学校のこのときというのは本当に貴重な時間だ。君もそうだろう。中学生のことは今でも思い出せるはず。君は彼らの人生に深い意味づけを与えることになる。」
後で知ったことですが、顧問の先生は社会の先生で生徒からとても人気のある先生でした。子供たちの学びのために旅行に行き、その活きた話を生徒にすることで人気の先生だったのです。とても子供たち想いの先生でした。
私はその顧問の先生から言葉をいただき、辞めることは一旦封印し、勉強しようと思いました。
本屋に行き、サッカー練習メニューの本、指導のヒントは何かないかと思い、指導者の自伝書を購入しました。記憶では野球の野村監督、バスケットボールからマイケルジョーダンなどを指導したフィル・ジャクソン、サッカーからはベンゲル監督などの本を購入した記憶があります。
どの本だったのか忘れたのですが、こう書いてありました。
「負ければ監督の責任。勝てば選手のおかげ。」
大きなショックを受けました。なぜなら私と考えが正反対だったからです。負ければ生徒たちのせいにしていた私とは対極の考えでした。
それ以外にも監督やヘッドコーチはとても深くチームのことを考え、一人ひとりに対して関心を持ち、アドバイスし励ましていることを知りました。
指導者の本を読み漁りました。そこで私の感情に変化が起こったのです。
人のせいにしていた自分がとても恥ずかしくなりました。指導者失格だと本気で思いました。だからこを自分を変えよう。自分を変えてもう一度挑戦してみよう。
素直にそう思ったのです。
想いが変われば世界が変化していく
私の指導は変わりました。これまで練習でダラダラしていたり、できなかったことにたいして感情をぶつけていました。そうではなく、なぜダラダラしてしまうのか、なぜできなかったのか。できないのは適切な練習の段階をおっていないからではないか。であるとしたらもっと基礎的な練習に力を入れる必要があるのでは。
など、チーム全体の動きを観察するようになりました。
また試合ではずっと声を上げて怒鳴り散らしていたのですが、やめました。
試合の流れを観察し、なぜあのプレーはうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのか。今後どんな練習をすればより試合に通用するようになるのか。
そんなことをじっと考えながら試合を観察するようになりました。
試合後は私から意見をいうのではなく、子供たちからの意見を求めるようにしました。何がよかったのか。これからどんな練習をしたらいいのか。
試合をしている選手は思ったより事態を把握していることを知りました。そして今後の課題も。そこででなかった課題は私のほうから最後に言いましたが、言う必要ないこともありました。
チーム一人ひとりに対する接し方も変わりました。
中学生3年間でやるサッカーは単なる通過点です。中学時代、無理してプレーし、けがをしてしまったために高校、大学、社会人でサッカーをしたくてもできない友人が何人かいました。
また中学時代はより基礎的レベルを高めたほうが高校、大学以降もサッカーを楽しめるのですが、そんなことを習っていない友人もいました。
そして何よりもサッカーは素晴らしいスポーツで本当に楽しいスポーツでチームプレーを学ぶことができサッカーだけではなく人生を学べるスポーツです。そのことを伝えたい。
中学3年間の成績ではなく、一人ひとりの今後の人生を踏まえたうえで、どう接したらいいか考えるようになりました。これは顧問の先生の言葉のおかげです。
このように私が変化していくとサッカー部があきらかに変わっていきました。
和気あいあいとしながらも練習では互いに思いを確認し合い、厳しい要求を出すこともあります。真剣な練習の後は談笑する。チームがとても明るくなりました。
登校拒否気味だった生徒がいました。サッカー部が楽しそうなので、サッカー部だけ来るようになりました。そこからしばらくすると学校にも元気に登校するようになったのです。
生徒のお母さんから
「コーチ、本当にありがとうございます。どうやって指導したんですか?」
と聞かれましたが、直接的に私は何もしていません、とお答えしました。私ではなく生徒たちと顧問の先生のおかげだったからです。
1年がたったころ、ある生徒の親御さんから提案をいただきました。
「サッカー部がすごくいい雰囲気で親として何かをしてやりたい。何かできることはありますか?」
夏場は試合が続くので、できれば飲み物や食べるものを用意していただけると大変にありがたいです、とお話すると快く受けていただき、そこから毎試合や夏の練習などをサポートしていただきました。本当にありがたかったです。
もちろんチームもどんどん強くなっていきました。
1年後、並のチームは負けることはなくなりました。強豪と呼ばれるチームとも互角とは言えないまでも大敗することはなくなり、さまざまな中学校から練習試合を申し込まれるようになるほど強くなりました。
3年後には全国大会常連校と破り、地区優勝を果たすことができました。
私は気が付きました。
自分が変わればこんなにも世界が変わる、ということに。
周りの方々のおかげ
人は本当は心の底では、みんなで協力しあいたい、いい結果を残したい、全力でやりたい、と思っているはず、と私は思っています。
本当はそうしたいけど、これまでの過去の経験や親や先生、友達から
「そんなの無理だって」
ということを言われ、受け入れてしまったのではないかと思います。
監督やコーチ、指導者はその思いを信じてどこまでやれるか。引き出すためにどこまで挑戦できるか。あきらめないでやれるか。
方法論はとても大切ですが、方法論より情熱や想いが大切であると考えます。
そして大切なことは一人では抱え込まないことです。これまでいくつもチームを率いてきましたが、失敗したときは、自分が天狗になっている、自分には実力があると勘違いしている、自分ですべてをやろうとしている、抱え込んでしまっているときでした。
一人では何もできません。みなさまのおかげです。それが自分の本心になったとき、かならず結果はかわります。
自分はきっかけ。いかに皆の力のベクトルを一つにまとめるか。より目的、目標にあわせることができるか。そのために自分は何ができるのか。そのような想いが大切なのです。
他人を変えるのは本当の難しい。だから自分が、私が変わりましょう。見返りを求めず変わりましょう。想いが適切であれば周辺の環境はかならず変わっていきます。